『明けまして、おめでとうございまぁ〜す!!』

『今年も1年、よろしくお願いいたしまぁ〜っす』



 付けっぱなしになっているテレビから、司会者たちの声が聞こえてくる。
 正月明けの三が日、ほとんどの人が新年に期待を馳せてまったり過ごしているこの日…



「あ〜〜〜…コタツはいいなぁ…」

「…リリンの生み出した…」

「そのネタは危ないからやめろ」



 明と初音は、宿木家のリビングのコタツでまったりとしていた。









2人の年始









「もぎゅもぎゅ…」

 剥いてあったミカンを、1個丸ごと口に入れて咀嚼する初音。

「(むきむき)」

 対面に座る明は、ミカンを剥いていた。

「…(ひょいっぱくっ)…もぎゅもぎゅ…」

 明がミカンを剥き終わった瞬間、初音がミカンを奪い取って口に入れる。

「あっ!お前人が剥いた物を!」

「んふふ〜…ぼ〜っとしてる明が悪いんだよ〜」

 ごくりと、ミカンを飲み込んで明へ言う初音。

「俺が悪いのかっ!
 …ったく…次は上げないからな…」

 そう言いながら新たなミカンへ手を伸ばす明。
 明から見て右手側…、コタツの一方を占領しているダンボール箱からミカンを取り出す。
 毎年この時期にはミカンの消費が激しいので、八百八から箱買いしているのであった。



「あっ雪!!」

 ちらりと、窓の外を見た初音が声を上げる。

「お、本当だ」

 明も窓の外に目を向けると、そこにはちらほらと降る雪が見て取れた。

「遊んできたらどうだ?お前、雪好きだろう?」

 ミカンを剥きながら明が言う。

「ん〜…いいや」

「寒いからか?コタツの中のほうがいいのか?」

「だって…明行かないんでしょ?」

「ん?
 あぁ、寒いし俺はここでミカン食ってるぞ?」

 剥き終わったミカンを自分の前に置いて言う明。

「…なら行かない。
 明と一緒じゃないと楽しくないし」

 そう言ってコタツ板に顔を乗せる初音。

「…………そ、それならゆっくりミカン食ってろ…」

 初音の言葉に顔を赤くしつつ、剥き終わったミカンを初音の前に置いてやる明であった。






「ねぇねぇ明」

 しばらくして、配られた年賀状を見ていた明に初音が声を掛ける。

「ん〜?」

「『姫始め』って何?」

「ぶはっ…げほっ…。
 …どっからそんな言葉を覚えて来たんだお前はっ…!」

 初音の突然の発言に、むせながら返す明。

「ほら、これ」

「…年賀状…?」

 初音が寄越した年賀状を見ると、そこには…






『やっほー、明けましておめでとう〜。
 怪我とか病気とかしてない?明ちゃんと仲良くやってる?
 去年もあんまり帰れなくてごめんねぇ〜。
 でも、明ちゃんとずっと一緒に居られて逆にいいかな?
 ともあれ、新年だからって『姫始め』して体壊しちゃ駄目よ〜。
 んじゃ、頑張ってねぇ〜。
                               母&父より』






「…何考えてんだあの人はぁぁぁぁぁ!!!」

 さすがに破るわけには行かないので、コタツ板に年賀状を叩き付ける明。

「あ、こっちにも書いてあるよ」

 初音がもう1枚年賀状を渡す。
 その年賀状の差出人は『明の両親』であった…。

「…何か裏で策略でも働いてるのかあの4人…」

 初音の両親と似たような内容の新年のあいさつ文に、がっくりと肩を落とす明であった。



「ねぇねぇ、それで『姫始め』って何?」

 興味津々、と言う風に明に聞く初音。

「そ、それはだな…。
 そ、そうだ!『正月料理から普通の食事に戻すこと』だ!」

 以前、料理本で読んだ記事を思い出す明。(諸説です)

「へぇ〜…。
 じゃあ、おせち料理を食べ終わった今日が『姫始め』ってこと?」

「そ、そうなるなぁ〜」

 ごまかせたか…と思いつつ明が答える。

「夕食、期待してるね〜♪」

「お、おう…」

 新年早々、豪勢に食事を作ることになってしまった明であった。


















――――――おまけ――――――



「明けましておめでとう〜初音〜」

「明けましておめでとうや、初音はん」

「明けましておめでとう、初音さん」

 バベルへ初出勤の日、更衣室で初音はザ・チルドレンの3人に出会った。

「明けましておめでとう、姐さんたち」

 新年の挨拶を3人に返す初音。



「そう言えばさ、初音は明さんと『姫始め』した?」

 げひゃっひゃっひゃっひゃと、オヤジ笑いをしながら薫が聞く。

「薫ちゃん…」

「…『ヒメハジメ』?」

 苦笑いする紫穂に、意味がわかっていない葵。



「明と『姫始め』?したよ?」

 あっさりと、薫の質問に答える初音。

「おぉ!?マジで!?」

「うん、とっても『美味しかった』よ?」

「おぉぉ〜!!そんなマニアックな!!!」

 初音の言葉に興奮する薫。

「………(多分別のこと言ってるのよねぇ…でも面白そうだから黙ってよう…)」

「美味しいって何やろ…」

 全てを察した紫穂と、益々わかっていない葵。
 3人が皆本にこのことを暴露して、また一騒動が起こるが、それはまた別のお話…。






(終)



初出:GTY+
2007年 1月 1日

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