[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
キーンコーンカーンコーン……
校内に終業のチャイムが鳴り響く。
それに乗じて、学校中の生徒たちが帰宅や部活動の準備を進めている。
「明~帰ろう~」
カバンに教科書などを詰め終えた初音が明へ声を掛けた。
「お~…」
こちらも帰宅準備が出来たらしく席を立つ明。
「あぁ、そうだ初音。
ちょっと本屋に寄って行こうぜ…買いたい本があるんだわ」
「うん、何買うの?」
「『料理本』。
最近のお前は良く食うからなぁ…。
おかずのローテーションに限界が出てきたからレシピ増やさないと…」
「わ~い♪
じゃあ今日の晩ご飯は新メニューだね!!」
余程うれしいのであろう、満面の笑みを明へ向ける。
「……うまく出来なくても文句言うなよ?」
照れているのか、頬をカリカリと掻きながら呟く明。
「もちろん!」
「んじゃ帰っか~」
「♪~~~」
そのまま2人は教室をあとにした。
「……なぁ……」
教室に残ったクラスメイトの1人が呟く。
「…なんだ」
向かいにいたクラスメイトが聞き返す。
「俺思うんだけどさ…。
あの2人は性別逆に生まれて来たほうが良かったんじゃないか…?」
「…俺もそう思う…」
2人が去ったあとの教室では、このような会話がされていた…。
本を買いに
――――――本屋――――――
「じゃ、私マンガ見てるね」
「あぁ、わかった」
本屋に到着した2人はそれぞれの目的のコーナーへ向かって行く。
この本屋は大型の店舗で、かなりだだっ広く、すぐにお互いの姿は見えなくなってしまった。
「さてと…どれがいいかねぇ…」
料理コーナーに到着し、物色をする明。
「…ん~…『明日のおかず』か…いろんな種類があるよりは専門書のほうがいいかな…。
え~っと…和食、洋食、中華にフランス、イタリア…。
量で言えば中華か…でもなぁ…中華は一般家庭の火力じゃおいしく出来ないって言うし…」
ブツブツと物色しつつ独り言を言う明。
本来、健全な男子中学生が熱中するべきコーナーではない(何処で熱中しろと言うかは別として)。
つつつ~っと、背表紙に指を滑らしながら探っていくと隣のコーナーに入ってしまった。
「『大型犬の飼い方』……か……」
隣のコーナーはペットコーナーだったようで、そんなタイトルの本が目に入った。
何故かその本が気になり手に取る明。
パラパラとページをめくっていく。
「何々…?」
『はじめに…。
犬にはそのグループ内での順位を決める習性があります。
本来、家庭で飼う犬の順位は一番下でなければなりません。
ところが、飼い主であるはずの人間を押しのけて、自分のほうが順位が上であると思っている犬がかなり存在します。
これは、飼い主が餌だけを与えることを続けると『こいつは自分に食事を捧げる人間』であると犬が認識してしまう為に起こるのです。
そのようになってしまうと、犬はその飼い主の言うことを聞かなくなってしまいます。
ですから飼い主は餌だけを機械的に与えるのではなく、餌と同時に『おすわり』や『おあずけ』などのしつけを行うようにしましょう。
飼い主は常に犬に対してリーダーシップを発揮し、犬をきちんとコントロールできるようにしなければなりません…』
「……積極的になれと……?」
違う…何処か違うぞ明。
そもそもそれは『犬』に対しての話である。
『しつけについて…。
しつけを行う場合、いくら犬が言うことを聞いてくれなくても叩いてはいけません。
暴力で教えるのではなく、自分の気持ちを言葉に乗せて犬に伝えるように行うのが大切です』
「……自分の気持ちを……言葉に乗せて……」
だから…『犬』に対してだってば…。
「明~?終わった~?」
そこへ初音がやって来た。
「あ、ああ終わったぞ…」
何故か焦りつつ、適当に料理本を掴んで会計をする明。
ついでに先ほどの『大型犬の飼い方』も買って行く。
「ありがとうございました~」
店員の声を背中に受けながら、2人は外に出た。
「さ、帰るか…」
「うん」
外はもう夕暮れ、少し急がないと夕飯の準備が間に合わなくなってしまう。
「…え~あ~…初音?」
明がモジモジしながら初音に言う。
「何?」
「…………」
無言で初音へ手を差し出す。
「?」
「………手、繋ごうぜ」
顔を真っ赤にしながらボソリと呟く。
「…うん!」
嬉々として明の手を握り、ぶんぶんと振る初音。
「……ま、これくらいから始めるか…」
「♪~」
腕を思いっきり振られて、よろよろと初音の横を歩きながら呟く明。
頑張れ明、何時か初音を飼える(養える)ようになる日まで…。
(了)
初出:GTY+
2006年10月 8日
戻る