ガツガツガツガツ…



バクバクバクバク…



「…お前、最近よく食うな…」

 勢い良く、今までの5割増の夕食をかっ喰らう初音に明は言う。

「ふぁっへほなはがふくんだふぉん(だってお腹が空くんだもん)」

 もごもごと、租借しながら初音が答える。

「成長期か…。
 まぁ俺も食う量が増えたけどなぁ…食費が…」

 エンゲル係数の増えた家計簿を思い、頭を抱える明。

「あ、そうだ明」

 ごくり…と、口に入れてた物を飲み込んで初音が言う。

「明日、洋服買いに行こうよ」

「ん?
 あぁ、サイズが合わなくなってきたか?」

 この頃、ほつれが目立ってきた洗濯物を思いながら言う明。

「うん、身長も伸びてきてるし………そろそろ必要だし…」

「必要?」

「ううん、なんでもない」

「俺もそろそろ服欲しかったからな、じゃあ明日は服を買いに行くか」

「うん!デート♪デート♪」

 初音は嬉々としながら食事を再開する。

「…えらい生活感のあるデートだな…」

 苦笑いしながら、明も食事を再開していった。






2人の成長期






「………」

 そわそわと、明は落ち着かない様子であたりを見回していた。

「おい…初音…まだか…?」

 背後の試着室のカーテン越しに初音に声を掛ける明。

「もうちょっと…」

 初音が試着室の中から答える。

「………なんで………



 俺がお前の下着の買い物を待たなきゃいけないんだっ…!」



 そう、明の居るところは男にとって禁断の場所…



 『女性下着売り場』であった。



「え〜…だって、上は初めて買うから良くわかんないんだもん」

「だったら店員さんにでも聞けばいいじゃないか…」

 やれやれ…と、ため息をつく明。

(今まで洗濯物に入ってなかったから、自分で洗ってるのかと思ったら…。
 まてよ…ってことは今までずっと着けてなかったってことで…。
 ってことは……この前とか、昨日とか、背中に引っ付いてきた時の感触は……)



ぶはっ…



 何かを思い出したらしい明が、鼻血を噴出する。

「落ち着け…落ち着くんだ俺…」

 ブツブツと呟きつつ、ポケットティッシュを取り出して鼻に詰める明。

「ふぅ…一安心…」

 不恰好ながらも、鼻血を止めて明はため息をつく。



「…どうしたの?」

 試着室のカーテンの隙間から顔を出して初音が聞いてくる。

「いや、のぼせただけだ…」

 視線を泳がせながら言う明。

「ふ〜ん…まあいいや。
 ねぇねぇ明、これなんかどうかな?」

 選んだスポーツブラとショーツのセットを渡す初音。

「俺に聞かれても困るけど…いいんじゃないか?
 動きやすくて、汗をよく吸いそうだし」

 値段もそれなりだしな…と、思いながら明はかごに入れる。

「あと、こういうのはどう?」

 手招きをして、明を呼ぶ初音。

「あんまり高いのにはするなよ…」

 そう言いながら、明は試着室に顔を入れる。

「どう?」

 明へ両手に持った下着を見せる初音。
 右手に持っているのは、白を基調とした標準的なブラとショーツ。
 左手に持っているのは、薄い青色をしたブラとショーツであった。

「いいんじゃないか?
 サイズが合うなら、色違いでもう2,3枚ずつ…」

 視線を、下から初音の顔へ向けながら言っていた言葉が途中で止まる。

「………?
 どうかした?」

 明の視線の先には、自前の下着姿…つまり『ショーツのみ着用』の初音の姿があった。



ずさっ…



 数秒の沈黙の後、前のめりにうずくまる明。

「な、なんで服着てないんだよ…」

 上を見ないようにしながら明が言う。

「あ、忘れてた」

 さらりと、うろたえた様子もなく言う初音。

「…外で待ってるからさっさと着替えてくれ…」

 そう言って、前かがみのまま試着室から明は出て行く。

「あ、やっぱりゆっくりでいいぞ、ゆっくりでな……」

「え?
 う、うん…?」

 試着室に背中を預けた体育座りの状態で、フラッシュバックする先ほどの光景に悶絶しつつ明は初音に言うのであった…。



(了)



初出:サイトオリジナル
2008年2月3日

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