もわぁぁぁぁぁぁ…



 木製の壁、木製の天井、そして木製の椅子…。
 熱気に包まれた密室の中(入り口に鍵は無いので正確には密室ではない)、男3人が腕を組みながらお互いを睨み合っていた…。
 そう、ここはサウナ室である。






『ナショナル・チルドレン』その後に






 コメリカ合衆国のグリシャム大佐逃亡事件から数ヵ月後、突然『ザ・チルドレン』の3人がこう言い出した。



「「「この間の埋め合わせにもう一回連れてって!!!」」」



「…わかったよ」

 前回あれほど不平不満を言っていたのに、何故もう一度行きたいなんて言い出すんだ…と、
 若干の嫌な予感を残しつつ皆本はしぶしぶ了承したのであった。



「それでさ〜皆本〜」

「この間はうちら4人で行ったわけやん?」

「今回は局長たちも一緒に行きましょうよ?」

「…え?」

 益々謎が深まる3人の言動…。
 しかし既に3人は局長たちに話をつけていたようで、もはや皆本には止めることが出来ない状況になっていた…。



「え〜っと…俺らもいいんですか?」

 そう問うたのは『ザ・ハウンド』の1人、宿木 明。

「うん、せっかくだしね」

「お風呂かぁ〜…混浴あります?」

 今度は明の相棒、犬神 初音がそう聞いた。

「スーパー銭湯にあるかそんなの…」

 何考えてやがる…と続けて明が言う。

「まぁ…骨休みだと思って気楽に行こうよ」

「そうっすね…ありがたく楽しませていただきます」

「残念…」

「まだ言うかお前は…」

 疲れたように初音に言う明…背中に哀愁が漂ってるぞ…。



 と、言うことで局長とその秘書柏木一尉、
 そして『ザ・ハウンド』の2名を加えてスーパー銭湯『おふろの王子様』へやって来た9人…。

 …9人?
 皆本・薫・紫穂・葵・局長・朧さん・明・初音…



「…ってなんでお前が居る賢木?」

「え〜面白そうじゃぁ〜ん?」

 飄々と答える賢木。

「…本当の狙いは?」

「お前がチルドレン3人に弄られている様を見て笑い、そして柏木さんの風呂上り姿を見て目の保養に!!!」

 背景にドパァンと波しぶきが立つかの如く、力を込めて言う。

「…柏木一尉〜」

「わ〜待て待て親友!」

「…セクハラは軽犯罪だぞ」

「わかったわかったOKOK…。
 普通に休みでヒマだったから来てみただけだ…」

「…『午前と午後にデートを分けてた彼女2人が鉢合わせ…修羅場で帰りたくない』」

 いつの間にか紫穂が賢木をサイコメトリーしている。

「…お前…」

「ごめんなさい、何処でもいいので連れて行ってください」

「…あぁ、わかったよ…」

 と、言うことで賢木までもが参加することになったのであった…。






そして話は冒頭に戻る―――



「…つーことで一番最初にここから出た奴が、今日の代金全持ちと言う事で…」

「望むところだヨ!」

「ってか何でそんな勝負を…」

「いいか皆本、男…いや、『漢』ってのはなぁ、常に勝負をしていなければならないもんなんだよ…」

「その通りダ賢木クン!」

「…いや、別に『漢』なんてどうでもいいというか…」

「なんだとぉ!
 お前はそんなんだからチルドレンの3人に良いように振り回されるんだぞ!!」

「な、そ、それとこれとは話が違うだろうが!!」

「いんや違わないね!!
 お前の中の『漢』が足りないから振り回されるんだ!」



カッチィーン…



 皆本の頭のわきを、ニュー○イプの人のような光が走る。

「ほー…じゃあこの勝負に勝てば、最低でもお前と局長以上の『漢』はあるってことだな?」

「あぁそうさ!
 ま、お前にはそんなこたぁ無理だろうけどな!!」

「ふ、ふふふふふ…」

「は、ははははは…」

「く、くくくくく…」

 男3人が、汗をダラダラ掻きながら笑い合っている…。
 恐ろしい光景である…。



 ところで同じ男湯に居るはずの明はどうしたかというと…。

「あ〜…いい湯だなぁ…」

 …結構オヤジ臭かった



―――閑話休題―――



 さて、そろそろ男湯を見るのも飽きたであろう方々の為、場所を女湯へ変えてみよう…。



「「「じぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」」」

 チルドレン3人の視線が、朧さん(特に胸)へ集中している。

「………」

「「「じぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」」」

 穴が開くほど…と言う表現がとても似合いそうな視線である。

「…あなたたち…」

「「「何?」」」

「…どうして私の胸をそうやって凝視しているのかしら…」

「いやぁ…やっぱでっかいなぁと…」

「本当に浮くのね…と思って」

「…何食べたらそんなになるん?」

「…はぁ…」

 やっぱり来るんじゃなかったかしら…と、若干後悔している朧さん。



じゃばじゃばじゃばじゃば…



 そこへ湯船をプールのように泳ぐ初音が通りかかる。

「…ほら、犬神さんはそんなことしないでしょ?
 女の子なんだから気になるのはわかるけど、まだあなたたちが気にすることじゃ…」

「そんなことはないよぉ〜初音さんも気になるよねぇ〜」

 薫が初音に問い掛ける。

「…別に気にしないわ」

 すっぱりと薫の問いを否定する初音。

「え〜…。
 こんなこと言うのもアレだけど、初音さんは年齢平均以下と言うか…」

 平たく言ってしまえば発育ぶそ…げふんげふん…。

「…明が気にしなければ私も気にしない」

「うっ…さり気に惚気られた…」

「それに…小さかったら明に大きくしてもらえば良いし」

「そ、それは『揉んで』と言う…」

 多少オヤジ顔になりつつ薫が初音に問う。

「こらこら…。
 その発言は危ないから駄目よ…」

 色んな意味で危ない発言を止める朧さん。

「ちぇ〜…。
 朧さんはどうしてそんなに大きくなったの?」

 話を最初に戻し、朧さんへ言う薫。

「どうしてって…。
 自然と…としか言えないわよ…」

「…もしかして偽物とか…」

 と、言ったのは葵である。

「なにぃ!?偽物ぉ!?」

 何故か過剰反応をする薫。

「に、偽物のわけないでしょう!!」

 葵の偽物発言に反論する朧さん。

「…触ってみれば本物かどうかわかるわよね?」

 今まで静観していた紫穂が、不自然なまでの笑みを浮かべてそう呟く。

「おぉ!そうだよな!!
 と、言うわけで確認させて〜朧っすわぁ〜ん♪」



どばっしゃぁ〜ん



 薫が満面のオヤジ顔を浮かべつつ、朧さんへダイビングする。

「きゃ〜!
 ちょっと薫ちゃんやめなさい!!!」

「おぉ!想像以上に…」

 『何か』を確認しつつ薫が驚嘆を上げる。

「あ、私も〜」

「う、うちもええんかな…」

 残る2人も参戦する。

「いやぁ〜!!やめなさい〜〜〜!!!」

 朧さんの叫び声が女湯に響き渡る…。
 合掌…。



その頃、初音は―――

「…明のコレクションには胸の大きいのは少なかったから大丈夫よね…」

 女湯の隅っこで、謎な自問自答をしていた…。



―――閑話休題―――



 さて、男湯の『野郎3人サウナ地獄』の様子を見てみよう…。



もっふぁぁぁぁぁ〜〜〜…



 気のせいか、初めの頃よりも湿度が高くなっている気がする。
 おそらくそれは間違っていないであろう、男たち…もとい『漢』たちの汗が大気中を漂っているからだと思われる。
 そんな環境の中でも、3人はまだ闘っていた…。



「…皆本、おまえそろそろ限界じゃないか?」

 精神的に揺さぶろうとしているのか、賢木が皆本へそう言った。

「…そう言うお前こそ、地黒の顔が真っ赤になってるぞ?」

 皆本が反論する。

「ふ…ふふふふ…」

「は…はははは…」

 妖しい笑い声が2人を包む。

「ふっ…精神的な揺さぶりとはまだまだ若いネ!!」

 2人の様子を鼻で笑う局長。

「局長こそ血管切れそうですが…」

「汗の量も半端じゃないっすよ…」

「わかってないネ!
 ほとばしる筋肉!!輝く汗!!
 それこそ『漢』そのものダ!!!」

 局長はそう叫びつつ専門用語で『ダブルバイセップス・フロント』と呼ばれるポージングを行う。



ムキィッ!



 実際に音こそしないが、ポージングする彼にはそんな音が似合っていた。

「…う…気分が悪くなってきた…」

「…もう勝負なんてどうでも良くなってきたな…」

 局長の叫びにテンション下がりまくりな2人。

「ふははははは!
 本当の『漢』は私だったようだネ!!!」

 高笑いしつつ『サイドチェスト』と呼ばれるポージングへ移行する局長。



はらり…



 『サイドチェスト』へ移行した際の振動で緩んでしまったのであろう…。
 局長の腰に巻いていたタオルが肌蹴てしまった。



「…いやん」



「「やめいおっさん!!!!」」



どげし



 肌蹴てしまったタオルを補うために自分の手で隠した局長…。
 その『恥じらいのポーズ』を見た2人のユニゾンキックが綺麗に決まる。
 そのまま局長は気絶してしまい、水風呂へ沈められるのであった…。



その頃、明は―――

「…臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前…」

 打たせ湯の下に立ち、修行ごっこなんぞをしていた…。



―――閑話休題―――



 一方、女湯の方はと言うと…。



「…なぁ…そろそろ…」

「…そうね…」

「…いい頃合やな…」

 チルドレン3人が怪しげな相談をしていた。

「…もしかして…行くの?」

 そこへ初音も参戦する。

「お、初音さんも行く?」

「うん」

「じゃあそろそろ行こか」

 葵がそう言い、他の3人は葵の身体に手を触れる。

「…?
 あなたたち…何を…?」

 様子のおかしい4人に気づいて、朧さんが近づいて来る。
 朧さんの手が薫の肩に触れた瞬間…



ヒュパッ



 5人の姿は消えていた…。












「…ふっふっふっふっふ…覚悟しろよぉ〜!皆本ぉ〜〜!!」

 場所は変わってここは男湯…。
 そう、男湯である。
 男湯の中で薫がそう叫んでいる。
 と、言うことは…そう、先ほどのテレポートで男湯へ移動して来たのである。

「皆本さんは何処かしら?」

「何処にもおらんなぁ…」

 男湯を見渡しながら紫穂と葵が呟く。
 今日は平日なので男湯は貸し切り状態。
 女湯のほうは近所のオバちゃんたちが居たがこちらはがらーんとしている。

「あなたたちぃ…そんなことに力を使っちゃいけません!」

 朧さんが4人を叱る。

「な、なんで朧さんが!」

「あ、一緒に居たから巻き込んでしもうたか…」

「さっさと女湯に戻りなさい!!」

「え〜朧さんも皆本の身体に興味ない?」

「うっ…それは…無いとは…」

「でしょ〜だったら見に…」

 3人と朧さんが交渉していたそのとき、初音が少し離れたところに背中を向けて洗い場に座っている明を見つけた。
 どうやら髪を洗っているようだ。

「…明発見」

 そのまま静かに近づいて行く。

「…?
 なんか聞こえたような…?」

 髪を洗っている最中なので周りを見れない明がそう呟く。
 何かの気配がしたのだろうが、時既に遅し…。



「あ〜き〜ら〜」

「のわぁぁぁぁ!?」



 突然背中に張り付いてきた『何か』に恐怖する明。
 皆さんも覚えがあるだろう、髪を洗っているときにふと思う『後ろに何か居たら嫌だなぁ』と言う気持ちを…!
 そしてそれが実現してしまったときは、心臓が止まりそうになるに違いない…!!



「は、初音か!?」

「あったり〜」

「なんで男湯に…」

「秘密」

「って、密着するなぁぁぁぁ〜!!」

「♪〜〜」

「本当にまずいからやめろぉぉぉ〜〜〜」



「「「「…はぁ〜…」」」」

 泡まみれになりながら、イチャついている(?)様をぼけ〜っとしながら見ている4人。

「…はっ!!
 そ、そうだ!皆本を探してるんだった!!!」

 いち早く意識を取り戻す薫。

「そ、そうだったわね!!」

 若干混乱しているのか、はたまた本音が出ているのか、朧さんも賛成する。

「ここに居ないんだったら、あそこしかないんじゃない?」

 紫穂が男湯の端にあるサウナ室を指差しながらそう言った。

「そうやなぁ〜あとはあそこだけやなぁ〜」

 葵も同意する。

「よぉし行くかぁ〜!!」

 薫の掛け声に続いて3人もサウナ室へ向かって行く。



「い〜〜〜〜や〜〜〜〜」

 明の悲痛(?)な叫び声が男湯に響き渡る…。
 しかし、誰も止める者は居なかった…。



「さぁて…ご開帳と行きますか…」

 にっしっしっしっし…と、オヤジ笑いをしながらサウナ室のドアに手をかける薫。

「「………」」

 若干顔を赤くしながら、薫の動向を見守っている朧さんと葵。

「………」

 そして、水風呂に浮かんでいる局長を見つけるも、そのままスルーをしている紫穂…助けてやれよ…。

「やめろぉぉぉ〜!!柏木一尉も正気に戻ってぇぇぇぇ!!!」

 少しだけ開いたドアの向こうから、皆本の叫び声が聞こえる。

「え〜っと…」

 その叫びに少し迷う朧さん。
 そこへ…

「おっぼろすぁ〜ん!!
 貧弱な皆本よりも俺のボディを見てぇぇぇぇ〜〜!!」

 サウナの熱さで脳をやられたのであろう(元々か?)、賢木が薫ばりのオヤジ顔をしながらル○ンダイブを仕掛けてきた。

「さ、賢木センセイ!?」

 怯える朧さん。

「ちょいな!」

 葵が指を振る。



ヒュパッ!



 女湯から男湯へ移動したときと同じ音がして、賢木の身体が消える。

「これで邪魔者はおらへんよ♪」

「ナイス葵!!」

 親指をびしっと立てる薫。

「と、言うことはサウナ室の中は皆本さん1人だけよね?」

 妖しい笑いをしているのは紫穂である。

「………(どきどき)」

 一番年う(めきょっ)…失礼、一番大人な朧さんも顔を赤らめてサウナ室へ潜入する。

「やめろぉ〜!!本当に舌噛むぞ〜!!!」

 哀れ皆本、
 チルドレン+朧さんに襲われお嫁にいけない身体になってしまう…かも。






(了)








―――おまけ―――



どばっしゃぁ〜ん!



「ぶはぁ!?ど、何処だここは!?」

 葵のテレポートによって何処かへ飛ばされた賢木。
 落ちた所はお湯の中であった…。
 ん?お湯の中…?

「…このピンク色が基調の天井は…男湯が青色だったから女湯かぁ!!!」

 女湯と知って途端に元気になる賢木。

「いやぁぁぁぁぁ!!!」

 そこへ女湯に響き渡る叫び声…。



「若い男よぉぉぉぉぉぉ!!!」



 …いや、歓喜の叫びか?



「げぇ!?マダムばっか!?」

 大阪のオバちゃん風な軍団を見つけた瞬間、脱兎の如く女湯を出ようとする賢木。
 そして脱衣所へ逃げ込むが…

「げ…こっちもかぁ!?」

 脱衣所にも同じようなオバちゃんが勢揃いしていた…。

「わざわざ覗きに来るなんて…」

「ぐふふふふ…」

「ふしゅるるるるる〜〜」

「ひえぇぇぇぇ〜!!」

 女湯に賢木の叫び声が響き渡る…。
 が、やはり誰も助けに来ることは無かった…。
 合掌…。






(本当に了)



初出:GTY
2006年7月17日

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