初めに…。

 この話は前作:絶対可憐『ハンター』を見た方々でないと判らない話となっております。
 もし読まれていない方がこの話を読んでいた場合、気が向きましたら前作をお読み下さいませ…。















絶対可憐『ハンター』外伝 〜来たるべき未来の為に〜
























「…と、言う『予知夢』を見たのよ」



 俺の目の前で長々と与太話をしてやがった初音が、最後にそう締めた。



「……」

「…?明?」

「…ひとまずな初音?」

「うん」

「謝れぇぇぇぇ!!
 お前の与太話を長々と聞かされた俺と!
 前作を読んで『新連載?』と、思った方々に謝れぇぇぇぇぇ!!!」





ごめんなさい by作者





「だから与太話じゃないってば」

「だいったいこの間『夢オチはやらない』と宣言しただろうがっ!」

「だ〜か〜ら〜、夢じゃないって」

「…夢じゃなくてなんだってんだ…空想か?妄想か?」

「だから『予知夢』」

「…予知ぃ…?」

「うん、最近たまに見るの」

「ほ〜…んで?」

「ほら、今日は明の誕生日でしょ?」

「あぁ」

 説明が遅れたが今日は俺の誕生日、今日で俺は18歳になった。
 皆本さんたちを交えた誕生日パーティーのあと、「話があるの」と言われてこいつの部屋に来てさっきの話を聞かされたわけで…。

「明は18歳になったのよ」

「それは知ってる」

 当たり前だ、自分の年齢だぞ。

「………」

「…なんだよ…」

「明のニブチン…」

「は?」

「明は18歳になったの、つまり結婚できる歳になったのよ」

「…あぁ…んで?」

 何言ってんだこいつは…。

「むぅ…」

「あのなぁ…俺が結婚できる年齢になったからってどうだってんだよ…」

 俺はまだ高校生だぞ…。

「年齢的には結婚して、子供がいてもおかしくないってことよね?」

「…あぁ…」

 …やな予感がしてきたなぁ…。

「さっきの予知夢だと私と明は結婚してるのよ」

「…あ、あぁ…」

 …なんとなく読めてきたぞこの野郎…。
 またこんなネタか作者ぁ!

「で、予知夢の中で皆本さんが『15年くらい前にこんな光景…』って言ってたわよね?」

「…あぁ、そうだったな…」

「あのセリフって薫さんたちが10歳くらいのときのことだと思うの」

「…話の流れで言えばそうだろうなぁ…」

「んで出て来た子供たちはみんな9〜10歳だったでしょ?」

「…だな…」

「あの頃から…つまり3年前から考えて15年って事はあの予知夢は私たちが30歳くらいの話よね?」

「…単純計算でな…」

「で、今の明は18歳でしょ?」

「…あぁ…」

「30歳の時に9〜10歳の子供がいるってことは?」

「…20か21の時に子供が生まれたって事だろ…」

「でも子供は10ヶ月くらい母親の身体にいるでしょ?」

「…あぁ…」

「ってことは明が19歳か20歳のときに…ってことよね?」

「…そう…だな…」

 入り口の鍵は…さっきかけてやがったなこいつ…。

「双子の出産ってとてもつらいらしいのよ」

「…へ、へぇ…」

 窓は…駄目だ…、初音をかわすなんざ無理に近い…。

「なんにでも『訓練』って必要だと思うの」

「…な、なんの『訓練』かなぁ…」

 やべぇ…目が血走ってるよ…。

「判ってるくせに…」

 じりじりと肉食獣が獲物を狩るように近づいてくる…。
 あぁ…俺は『またも』食われるのか…。
 その予知が叶うのは願っても無いが、来年には子持ちってのは心の準備が…。
 って、予知の通りならどのみち再来年には子持ちになってるって事か…。
 1年早まるだけか…1年くらいなら…ってしっかりしろ俺ぇ!

「はっ!」

 ようやく現実逃避から還って来れたか…って…

「服を爪で破るなぁぁぁぁぁぁ!!!
 そして目をぎらぎらさせて4つ足で近づいてくるなぁぁぁぁ!!!」

 顔を上気させて近づいてくる初音の姿が、その日の俺の最後の記憶だった…。












次の日―――



 B.A.B.E.L.でのミーティング後、俺は皆本さんの部屋にいた…。



「…で?
 今日はやけに疲れてるけど…。
 昨日僕らが帰った後に何かあったのかい?」

 コーヒーを俺に渡しつつ、皆本さんが言う。

「あ〜…あったと言えばあったんですが…」

「…僕が聞いちゃいけない話なら別に話してくれなくてもいいよ?」

「ん〜…まぁ、その、なんというか…」

 あいつの予知夢が原因なんだよなぁ…。
 ん?待てよ…?

「そう言えば皆本さん…。
 初音って『予知能力』を弱いけど持ってますが、10年以上先の予知をすることが出来るんですか?」

「ん?
 ん〜…10年以上先ってのは難しいと思うけどねぇ…。
 …レベル7の力を持っていれば10年以上先は可能かもしれないよ」

 気のせいだろうか、皆本さんに一瞬影が差したような…。

「じゃあアレはやっぱりただの夢なんだな…」

「夢?」

「えぇ、初音が予知夢を見たって言うんですよ…しかも10年以上先の」

「へぇ?
 どんな内容なんだい?」

 興味が湧いたのか皆本さんが聞いてきた。

「実はですね…」






1時間後―――



「ってわけなんスよ。
 よく出来た話ですけどねぇ…子供だとか…」

「…僕が3人と結婚してるってのはとんでもないな…」

 皆本さんが苦笑いで感想を述べた。

「ですよねぇ?」

「…だがそう言う回避方法もあるのか…」

「え?」

「いや、こっちの話さ…でも…」

「?」

「…当たる可能性は高いかも知れない…」

「えぇ!?嘘でしょう!?」

「う〜ん…僕もなんとも言えないんだけどねぇ…」

「だって予知能力レベルが低いと的中率がかなり低くて、複数人で可否を多数決で測るって聞きましたよ!?」

「たしかにそうだよ。
 うちの予知システムはそう言う測り方で精度を上げてるよ。
 でもね、たとえレベルが低くても的中率が高い予知ってのはあるんだよ」

「なんですそれ?」

「それはね、自分の大事な人に関する予知さ」

「……すいません、すんごい恥ずかしいんですが…」

「それは僕だって一緒だよ…。
 でもこれは冗談でもなんでもなくてね、『虫の知らせ』ってのは知ってるだろう?
 あれはノーマルの人でも起こる事象で、家族や親しい友人の事故や死を感じるって言う一種の予知なんだけどね」

「えぇ、それは知ってますが…」

「あれの的中率は笑い話にならないほど高いんだよ、純粋なノーマルの人でさえ…ね?
 と、言うことは予知能力は『自身に関わりのある人々』に対しては的中率が格段に上がるってことになるだろう?
 それに以前、明くんは初音くんの予知で事故に遭うところを助けられたんだろう?」

「まぁ…たしかに…」

「だから初音くんが見た予知夢が嘘で無い限り、的中率はかなり高いってことになるのさ」

「う〜ん…あいつがいくらサカってたと言ったって、あんな嘘吐かないしなぁ…」

「…『サカってた』って…」

「………そう言う予知夢を見たから『訓練』しようと襲われまして…」

「…君も大変だねぇ…」

「…このままだと、本当に来年には子持ちになってしまいそうな気がするんですが…」

「でも、初音くんのことが好きなんだろう?」

「ぶはっ…げほげほ…」

 こ、コーヒーが気管にっ…。

「どうなんだい?」

「…そ、そりゃぁ…嫌いだったら何が何でも振り解いて絶交しますよ…」

「青春だねぇ…」

「うぅっ…」

 あ〜恥ずかしい…。

「ま、初音くんの予知夢が本物なら、その未来は幸せなんだろう?」

「…そうですね、誰もが幸せな未来だと思います」

 確かに今現在起きている『パンドラ』や『普通の人々』との戦いは全て終わっていたし、それらは壊滅もしている。
 それに…俺や初音、皆本さんや『ザ・チルドレン』の3人も幸せそうに生活している未来予知だったな…。

「実際に未来がどうなるかなんてのは誰にもわからないよ。
 例えばの話、極端だけどここで僕が自殺してしまったらその未来は起きないことになる」

「それは…」

「もちろんそんな気は無いし、今後する気も無いよ。
 …でも僕は君たちが幸せな生活を送る為なら、命を掛けてもいい…」

「…皆本さん?」

 なんだろう、皆本さんは何かを知っているのだろうか…。

「…ただ、その為に3人と結婚するってのはやりすぎって感じがするなぁ…。
 その未来の僕は一体何を考えてそうなったんだ…」

「はははは…」

「でも、さっきの命を掛けてもいいってのは本当だよ。
 だから明くんも幸せな未来を送れるように努力してくれよ?
 その為に子作りしろとは言わないけどね…」

 冗談交じりで皆本さんが言う…。
 そうだな…俺も初音に流されるだけじゃなく、俺のほうからも…。
 …って何考えてるんだ俺は!!

「も、もちろんですよ…」



コンコン…



 部屋の扉をノックする音がする。

「皆本さん、ここに明います?」

 そう言って顔を扉から覗かせたのは初音だった。
 噂をすれば…か。

「ああ、いるぞ。
 …じゃあ皆本さん…俺そろそろ行きますね」

「うん、頑張ってね明くん」

「…皆本さんも…」

「もちろんだよ」

「何の話?」

「こっちの話だ。
 んじゃ帰るぞ初音。
 皆本さん、また明日」

「…?
 さようなら皆本さん」

「ああ、2人とも気をつけてね」






 皆本さんの部屋を出て廊下を歩く俺と初音…。

「…皆本さんの言う通りだよなぁ…」

「何が?」

「…昨日のお前の話さ」

「…予知夢のこと?」

「ああ…。
 …あの予知夢が俺らの1番の幸せなんだとしたら、絶対にあの未来が訪れるようにしないとな」

「…明…」

「何も言うな。
 言った俺が1番恥ずかしい」

 これじゃまるでプロポーズじゃねぇか…。

「…うん…。
 …じゃあ今日も頑張らないとね…」

「…出来るだけ翌日に疲れが出ない程度にしてくれ…」

 右腕に初音をぶら下げつつ、俺は家へと向かって行った…。















そしてまた次の日―――



「ふっ…太陽が黄色く見えるぜ…」

 なんだかんだ言って2桁か…ケダモノめ…。

「…ん?」

 あそこに居るのは皆本さんか?

「みなも…」



 俺は声を掛けようとして絶句した。



 何故なら…ベンチに座っている皆本さんが…。



 とてつもなくやつれていたから…。



 しかも首のあたりに、虫に刺されたような痕が大量に…。



「……初音……もしかしてあの予知夢のこと『あの3人』に話したのか……」



 たしかに…皆本さんは命を掛けたのかもしれない…。



 局長と兵部に知られたら殺されるだろうから…。






(了)



初出:GTY
2006年6月18日

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