「我々はぁ!!
 『ネオ・普通の人々』であぁ〜る!!
 我々はこのエスパーに支配されている腐った世界を…」

 真っ黒な上下のスーツ、そしてサングラス、さらにその上に真っ黒なコート…。
 『お前らどう考えても普通の人じゃねぇよ』と、ツッコミが入りそうな格好をした男達が武装をして演説をしていた。



ズガガガ!!!



「な、なんだ!?」

 突然、男達の回りに光り輝く矢のような物が突き刺さる。



「あんたらなぁ…。
 俺らが生まれる前に壊滅したくせに、いまさら復活してきてんじゃねぇよ…」



 何処からか少年の声がする。



「そうそう、今時エスパーだとかノーマルだとか古いのよねぇ」



 次に聞こえてきたのは少女の声だった。



「!!特務エスパーか!!」

 リーダー格の男が回りを見渡しつつ、銃を構えて叫んだ。



「そもそも名前に『ネオ』だとか『メカ』だとか付けるだけで復活する悪役ってのは、即壊滅するのがオチよね」

「連載当初の悪役の復活とかな。
 パワーアップした主人公側に速攻でやられるんだよなぁ」



 歩道橋の上から聞こえる『ネオ・普通の人々』と自称する男達を、何処か小馬鹿にしたような2人の声…。

「くっ…我々も気にしていることを…!!」

 本人達も多少は自覚があるらしい。



「いいか!よく聞け!!」

「私達は『B.A.B.E.L』直属特務エスパー『ザ・ハンター』!!」

「あんたら狩って小遣い貰う特務エスパー!!」

「言うなれば親父狩りってヤツ?」

 妙に気の合う2重のボケをしながら、少年と少女は『ネオ・普通の人々』に向かって行った…。






絶対可憐『ハンター』






『ガァァァァ!』

 先ほどの少女が狼に変化して『ネオ・普通の人々』を襲う。



「くっ、距離を保て!
 遠くから狙い撃ちするんだ!!!」

 リーダー格の男の指示で、部下達が少女を囲うようにして攻撃を仕掛ける。



「させねぇよ」

 歩道橋の上に残っていた少年が、右手を掲げると光り輝く弓矢が出現した。

「『スネイクシュート』!!」

 少年が狙いをつけて矢を放つ。
 放たれた矢は普通の矢では到底ありえない、地面を這う蛇のような軌跡を描いて飛んで行く。



「なんだこの矢は!?」

「これも超能力か!?」

 男達の足元を矢が勢いよく飛び回る。



『グルルルル!』

「ぎゃぁ!!」

 矢を避けることに夢中になっていた男の一人の襟首を、狼と化した少女が噛み付いて振り回す。

「ぐぇっ…」

 首が絞まり男が気絶する。
 気絶した男を放り出し、今度は別の男を狙う。



「ちっ!あのガキを狙え!!!」

 リーダーが歩道橋で弓を構えている少年を指差しながら指示をする。



タァン!!タタァン!!



「うわっ!」

 3発銃声が聞こえると共に、少年が立っていた場所から飛びのく…。
 1発はほほをかすめ、2,3発目は太ももをかすめていたようで少年はそのまま地面に倒れこみ、立ち上がることが出来ない。



「『ハツヒ』!!」

 少女が少年の名を叫ぶ。



「今だ!あのガキを狙え!!
 あのガキのサポートがなければ、こっちは遠距離からの攻撃で勝てるぞ!!!」

 リーダーの指示でハツヒと呼ばれた少年に向かって行く。



「くっ…不味いな…。
 …『ツキネ』!アレをやるぞ!!」

「わかった!!」

 少年が少女の名を叫び、少女がそれに同意する。



「何をするか知らんが、そんな足で何が出来る…!」

 少年側へやって来た男達が、勝利を確信しながら少年へ近づいて行く…。



「ウゥゥゥ…ウオォォォォォォォン!!!」



 少女が雄叫びを上げる…。
 すると…



バサ…バサバサバサバサ…!!!



「な、なんだ!?ハトの大群が!?」

「いた、いたたたたたた!!!」

 少年の周りにいた男達目掛けて、大量のハトたちが襲い掛かる。

「一体…!?」

 他の男達も見たことが無い光景に戸惑っている。
 その隙を逃さずに、少女が少年のほうへ走り抜けていく。



「ハツヒ、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だ…お前は?」

「私は大丈夫、準備も出来てるわ…」

「よし、やるか…」



 少年と少女は自分のポケットから『カ○リーメ○ト』を取り出した…。



「「ボリボリボリボリ…(ごくん)」」



「な、何故に『カロ○ーメイ○』!?」

 その場に居た全員の心境を代弁するかのようにリーダーが叫ぶ。



「「合!!!体!!!」」



 2人が右腕をクロスさせて叫ぶと、2人の身体から光がほとばしる。

「な、なんだ!?」

「合体だと!?」

「ま、まさか巨大ロボに!?」

 いや、最後はどうかと思う…。



 光がおさまり2人が立っていた所には1つの影が…。
 そこには…

 上半身が人間…

 下半身が馬と言う…

 神話に登場するような、『ケンタウロス』が存在していた…。



「な、なんだアレは!?」

「ば、化け物め…!」

「う、撃て!撃てぇぇぇ!!」



パパパパァン!!



 男達が恐怖にかられて銃を撃ちまくる。
 しかし着弾の前にケンタウロスの姿は消えてしまっていた。



「なに!?何処だ!?」



「遅い!!
 『シャドウ・ソーイング・シュート』!!」



 ケンタウロスと化した2人が、黒い矢を男達に向かって乱れ打ちする。
 その矢は全て男達の影へと突き刺さっていった…。



「何!?動けないだと!?」

「くっ…どういうことだ!!」

 男達はもがき苦しんでいる。
 どうやら体が動かないらしい。



「ふっ…。
 『シャドウ・ソーイング・シュート』の矢を影に喰らったヤツは動けなくなるのさ…」

 カツカツと、蹄の音を立てながら男達の前へ現れるケンタウロス。

「さて…あとはあんたらを捕まえて任務完了と…。
 ま、ほとんど掴まっているようなもんだしな…。
 結構楽勝だったなぁ?ツキネ?」

 相棒(下半身)へ向けて話し掛けるハツヒ。
 しかし返答は無い…。

「おい?ツキネ?
 …まさか…うっ…」

 突然ハツヒが頭を抱える…。



「ヴルルルルルル……」



 ケンタウロスの下半身…つまりツキネが獣のような声を出し始める…。

「マズイ…。
 待て!ツキネ!!落ち着けぇ!!!」

 ハツヒが叫ぶが、ツキネには届かない…。



「ヴヒヒィィィィィン!!!」



 ケンタウロスの下半身、ツキネが暴れ馬の如く前足を持ち上げて動けないでいる男達を威嚇する…。
 そしておもむろに後ろを向く…。



「待て!それはやめろぉ!!」






バカァン!!!






 ハツヒの叫びも虚しく、ツキネは男達に向かって後ろ足蹴りを繰り出した…。
 後ろ足蹴りは正確に、男達の胸へとめり込む…。
 弾け飛ぶ男達の『上半身』…。



「あ〜…やっちまった…」

 慌てた様子も無く、ハツヒは悔しげに呟いた…。









「そこまで!!!」



 男の声があたりに響き渡る。
 声の方向からスーツを来た青年が、やってくる。
 そしてその背後には数名の男女が近づいてくる。



「やれやれ…『実戦くん・テロリストバージョン』3機がオシャカか…」

 上半身だけでエラー音を発生させている、人間そっくりのロボットを青年がいじりながら呟く。
 先ほどまで2人が戦っていた相手、『ネオ・普通の人々』は精密に作られたロボットだったらしい…

「『薫』の時ほど酷くないけど、もう少し暴走を抑えるようにぃいっ!!??」

 青年の言葉が突如として乱れる。
 彼の足元を見てみると、ハイヒールのかかとで踏まれた左足があった…。



「だ〜れの時ほど酷くないって〜?」



 にこやかに青年の左腕にしだれかかりながら(左足は踏んだまま)絶世、と称してもよさそうな女性が聞く。

「イエベツニナニモイッテナイデスヨ…」

 額に脂汗を垂らしながら青年が答える。

「はははは…」

 彼の後ろに控えていた、もう1人の青年が乾いた笑いをしている。

「『局長』も大変っすね…。
 っと、ほれハツヒ、ツキネ、さっさと腹ごしらえしろ」

 ぽいっとその青年が、繋がったソーセージを丸ごと投げる。



「助かったよ父さん…」

「ゴハン!!」



 すると、今までケンタウロスだったハツヒ…『初日』とツキネ…『月音』が、元の姿に戻りソーセージをむさぼり始める。



「本当に2人は君達にそっくりだねぇ『明』くん、『初音』くん」

 ハイヒールから脱出した、局長と呼ばれた青年…『皆本 光一』がそばにいた2人へと話し掛ける。

「ははは…。
 それは常々思ってますよ…。
 初日は俺似ですし、月音は初音にそっくり。
 合成能力も俺と初音の力が交じり合ったって感じですからねぇ…」

 明と呼ばれた青年が言う。

「交じり合ったってのは当たり前、だって私と明の愛の結晶なんだから」

 明の隣りに立つ初音がそう語る。

「ぶっ…。
 お前…こんなとこでそんなことを…」

 突然の妻の発言に顔を赤くする明。

「はははは…。
 にしても実戦は始めて見たけど面白い能力だねぇ…」

 感心したように皆本が言う。

「初日くんが『念力』で付近の物質から別の物質を創り出す『物質具現化能力』。
 それと『精神感応』の変形で無生物へ自身の意思を伝える『遠隔操作能力』か…。
 さっきの弓矢の創造や、矢の動きなんかはすばらしいな…。
 そして月音くん…。
 初音くん譲りの『獣化能力』、それにさっきの遠吠えに『精神感応』を乗せて動物へ命令を与える『遠隔命令能力』か…」

 確かに明と初音の能力を派生させた能力だ。

「そして極めつけは『双子』ならではの『合体能力』…。
 『精神波』をシンクロさせてお互いの能力を組み合わせる…か。
 どうやら初日くんがベースだから『半獣半人』の変化しか出来ないようだね。
 さっきの『シャドウ・ソーイング・シュート』って言うのは、
 初日くんの矢に月音くんが『動くな』と言う命令を乗せて、影を狙って撃った…てとこかな?
 いわゆる『影縫いの術』ってヤツだね」

 こんなとこかな?と、元超能力専門科学者らしく分析する皆本…若干得意げだ。

「え〜っと…」

「??????」

 皆本に聞かれた2人だったが、なんとも言えない表情をしていた。



「『光一』はん、そんな難しい話わからへんって」

「そうよ『光一』さん、
 そもそも合成能力者って言うのは意識して力を発現してるんじゃなくって、そういう形でしか出せないって言うのは知ってるでしょ」

 皆本達の背後から女性2人の声が掛かる。

「『葵』、『紫穂』、君らも来たのか」

 皆本が2人へ声を掛ける。

「そうや〜。
 子供たちが愛情弁当作ったから持って来たんや」

「ほら、あなたたち」

 紫穂が自分たちの後ろに控えていた子供たち3人を促す。



「月音ちゃ〜ん。
 はい、お弁当作ってきたよ〜」

 メガネをかけた優しげな少年が月音へ小走りに近づいて、手に持っていた弁当箱を渡す。

「『一(ハジメ)』〜!」

月音は一と呼んだ少年を嬉しそうにぎゅ〜っと抱きしめる。



「…いつもながら月音の一に対する愛情表現は過激だなぁ…」

「月音ちゃんは単純だから…」

「うぉ!『一穂(カズホ)』!?
 音も無く背後に回るなよ!!」

「あら、そんなに驚かなくてもいいじゃない。
 はいお弁当、残さず食べないと後で恐いわよ?」

 にこやかに一穂は初日へ念を押す。



「…なんか時代は巡ると言うか…。
 どっかで見たような風景だよなぁ…デジャヴってヤツかな…?」

 初日、月音と『自分の子供』たちの掛け合いを見て、遠い目をしながら皆本が言う。

「何ブツクサ言ってんの父ちゃん?」

 いつの間に来たのか、皆本のわきには少女が立っていた。
 彼女も弁当箱を持っている。

「ん?『光(ヒカリ)』か。
 いや、15年くらい前にもこんな光景があったなぁって思ってね」

 自分の娘、光を抱き上げながら言う皆本。

「母ちゃんたちのこと?」

「そうだね、君たちは昔の僕らに似ているよ」

 あの時から彼女らに振り回されてるのは変わってないけどな〜。
 いや、子供の分だけ振り回される要因が多くなったか…。
 そんなことを思いつつ娘の頭を撫でる。

「こら光、父ちゃんは母ちゃんたちの物なんだからな、独り占めは良くないぞ」

「そうやで〜。
 ま、子供たちも含めてみんなのお父はんなんやけどな〜。
 それでも独り占めは駄目やで〜」

「そうそう。
 みんな光一さんの為にお弁当作って来てるんだから平等に全部食べて貰わないとね」

 皆本を独り占めしている娘に対抗する母3人…。
 それぞれが弁当箱を持ってにこやかに笑っている…。

「ちょ、ちょっと待った3人とも…さすがにそれ全部は…」

 おそらく全部自分が食べさせられるであろう弁当箱を見て焦る皆本。

「もちろん残さず食べるよな?」

「食べれなかったら強制的に胃に『送る』で?」

「どうしても残したい…って言うなら今夜は激しいわよ?」

 息の合った3人の連携プレーに、皆本の脳裏にドナドナが響き渡る。
 もう、明日の疲労困憊は避けることが出来ないらしい…。



「…あの人たちも変わらないよなぁ…」

 皆本とその妻3人+娘の会話を見ながら明が呟く。

「…そんなことより明、お昼ご飯頂戴」

「…へいへい…。
 ……俺らも変わってないよなぁ…」

 巨大な弁当箱を風呂敷包みから出しながら言う。

「…変わらないのが一番幸せよ…」

 さっそく弁当箱から鶏肉のから揚げを取り出してかじりつつ、初音が呟いた。

「…それもそーか…。
 …いい天気だなぁ〜…」

 晴天の空、雲がゆるやかに流れている…。






 20XX年、世界からエスパーとノーマルの人々の争いが無くなったこの時代…。
 愛すべき子供たちが幸せに過ごす姿を見ながら生きる彼ら…。
 この幸せが、いつまでも続きますように…。





(了)



初出:GTY
2006年6月14日

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