『ガァァァァァァ!!!』
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
いつもの訓練風景…。
初音はやはり、初っ端から暴走していた…(背中に明を乗せて)
ヒーリング!!
「…まぁた傷こさえて来やがって…今回はどんな訓練を?」
消毒薬などを用意しつつ、賢木が明へ言う。
「…能力の持続力を上げようと思って…いたたた…」
暴走に巻き込まれてずたぼろの明、どうやら口の中まで切ってしまったらしい。
「…限界まで空腹に耐える訓練をして、プッツンした瞬間に食べ物与えたら足りなくて暴走…ってとこか。
いくら特務エスパーになったからって無理に力を上げようと思わないほうがいいぞ、事故が起こるのが関の山だ」
お前らは伸び盛りなんだから自然に力は上がるさ、と続けながら賢木は治療セットを持って来た。
「どれ、初音ちゃん傷見せてみ」
「…俺のほうが重症なんですが」
初音の前に座って傷を見ようとした賢木に対して明が呟く。
「俺はいつでもレディファーストなの」
医者としてどうかと思うが…。
「私はいいです、もう治りましたから」
「へ?結構血が出てたけど?」
暴走時に施設内を走り回り、色々なものとぶつかって血が出ていたはずだったが、今はもう傷が消えていた。
「あ〜、こいつ傷の治り早いんスよ…どうも犬神家の血筋らしくて」
賢木は当てにならないと思ったのか、自分で治療をし始める明。
どこかシュールだ。
「ふ〜ん…『超回復能力』ってヤツか」
「?なんですそれ?」
聞き慣れない言葉に明が問う。
「…子犬が大怪我をして、朝起きたら大人の女性になってたってヤツ?」
「それは他の漫画だっ!!」
初音の言葉に賢木が突っ込む。
「『超回復能力』ってのは超能力未満、体質以上って感じの概念なんだけどな。
傷の治りが早いって言うのを一括りで『超回復能力』って総称しているのさ。
生物には傷を治すメカニズムが存在するのは当たり前の話だし、そのメカニズムが強弱があるのも当たり前。
記憶力がいい、悪いとか運動神経が高い、低いってのと同様に存在するから超能力として分類出来ないだろ?
だから超能力未満、体質以上…って事になるのさ」
「へぇ〜そうなんですか」
「ま、『プラナリア』みたく身体を切断されても元に戻るような回復力だったら、超能力になるんだろうけどな。
…待てよ…『超回復能力』か…もしかしたら…」
あごに手を当ててなにやら考え込む賢木。
「どうかしました?」
明が問う。
「ん〜…もしかしたら初音ちゃんは『ヒーリング』の能力を持ってるかも知れない」
自信無さ気に賢木が呟いた。
「え?私が?」
「どういうことですか?」
初音と明が聞くと、賢木はこう続けた。
「そもそも『ヒーリング』ってどんな能力か知ってるかいお二人さん?」
「確か…『相手の傷口の再生細胞を活性化させて回復力を高める』ってヤツですよね」
明が言う。
「ん〜、半分当たりってとこ、実は答えは2つあるんだなぁ」
「え?2つですか?」
「???」
話に着いていけないのか、初音はハテナマークを大量に頭上に付けていた。
「明が言ったのも『ヒーリング』の1つ。
でもな『ヒーリング』ってもう1つ存在するのさ、言葉は同じだけど別の能力でね。
それは、『超回復能力を持つ者が、自分の能力を相手に分け与える』ってヤツ」
「?分け与えるってどうやって?」
初音が聞く。
「まぁあれよ、動物がよくやる『傷を舐める』って行為だね。
要するに自分の中の再生細胞を相手の傷口に渡してやって、その再生細胞の力で傷を治してあげるってことだな。
相手の傷の上で再生出来るほど回復力が強くないと出来ないけどな」
「ふ〜ん…(じーっ)」
賢木の説明を聞いた初音が隣に座る明を見つめている。
「(やな予感が…)
…じゃ、俺らそろそろ…」
ガシッ!
「はぅっ!?」
突然初音が明の腕を掴んだ。
「…実験♪」
「ちょっやめっ」
バリッ
楽しそうに微笑んだ初音は狼形態に変身し、明の腕を引っかく。
綺麗な3本線が引かれたと思うと、そこから赤く血が滲んで来る。
「!!!」
「グルル…(ペロペロ…)」
明が痛みで顔をしかめた瞬間、初音はペロリと舌で傷口を舐め始めた。
シュゥゥゥゥゥ…
明の傷が煙のように消えて行く。
「おぉ…傷が消えてく」
初音の有無を言わさない行動をぼーっと見つつ呟いた賢木。
「…本当だ…っていきなり何をするかぁ!」
「え〜実験だよ実験」
悪びれた様子を見せずに初音が言う。
「まぁまぁお二人さん…。
でもこれで初音ちゃんに『ヒーリング』の能力があるってことがわかったんだからいいじゃないか…」
大人らしく賢木がたしなめる。
「それはそうですけど…」
納得が行かないと言った感じで言う明。
「…そっかまだ傷が残ってたっけ…」
「…え?」
初音の呟きに明が疑問符を上げる。
「…口の中…切ったんでしょ…?」
口の中を切った + 『ヒーリング』には傷口を舐める必要がある = ??????
「……!!!」
顔を真っ赤にして明は脱兎の如く医療室を出ようとする…が猟犬である初音に首根っこを掴まれて逃げれなかった。
「…俺はお邪魔だな…。
そうだな、2時間くらい外ふらついて来るからごゆっくり。
入り口に鍵かけて『休憩中』って札立てとくわ…くっくっく…」
ニヤニヤしながら賢木は外へ出て行った。
「ちょっ待っ!」
「明、うるさい」
後ずさりしながら逃げる明、それを追う初音…。
「ヒ、『ヒーリング』するのはいいとして!
な、なんで狼形態にならずに近づいてくるんだ!?」
「この状態でも同じ力は出せるわ…ちょっと疲れるけど」
運命か、それとも偶然か、追い詰められたのは壁際のベッドの上…。
「いくらなんでも…口の中までは…!!」
「…だって…」
突然しゅんとなる初音。
「私のせいでしょ…?
それとも私じゃ嫌…?」
「うっ…。
そ、それは嫌じゃないが…」
「じゃあいいじゃない♪
『いっただっきま〜す』♪」
「演技かこのやろーーー!!」
明の悲痛な(?)叫びは、『何故か防音機能を搭載した』医療室の中に消えていった…。
2時間後、賢木が医療室に戻ると1つのベッドで寝ている2人の姿を発見。
初音はつやつやと血色が良く、明は疲労の色を出していたがどこか幸せそうに見えた、と賢木は後に言っている。
そしてこう付け足した。
「初音ちゃんの『ヒーリング』は身体の傷を治すとは別に、明限定で『心を癒す』能力もあるんだな」
――――――おまけ――――――
「んで?どうだった?」
起き出して来た2人に向かって賢木が聞いた。
「〜〜!!(ぼふっ!)」
顔面を真っ赤にして湯気を噴き出す明。
「…明のご飯と一緒でおいしかった」
初音もやや恥ずかしそうに呟く。
「あっはっはっはっは!!!
ここまで惚気られるとなぁ〜!!
ま、節度のあるお付き合いをしろよ2人とも。
くっくっくっくっく…」
爆笑しつつ2人を賢木は見送って行った。
その後、明と初音の2人は信頼度が上がったのかコンビネーションに磨きがかかり、
最強エスパーチーム『ザ・チルドレン』に次ぐチームとして活躍していったと言う。
(了)
初出:GTY
2006年5月27日
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