「…っと…こんなところかな…」
とあるホテルの調理室で、明は巨大なケーキと格闘していた。
「明…」
「初音か。
どうだ?それらしい出来だろう?」
エプロンを着けてコック帽を被った明が、作り終えたケーキを見て初音へ言う。
「うん…ごめんね、わがまま言って…」
「気にすんな、お前のわがままには慣れてっから」
コック帽を脱ぎながら言う明。
「なんだ、しんみりして…お前でも結婚式前は緊張するのか」
「そ、そんなんじゃ…」
「あぁ初音くん、ここに居たんだね」
ドアを開けて皆本が入って来た。
「柏木一尉が探してたよ。
もうそろそろドレスに着替える時間だってさ」
「あ、はい…」
「ほら、早く行け。
主役の着替えが終わんないと式が始まんないだろう?」
「うん…」
ちらりと明を見て、初音は調理室を出て行った。
「何しに来たんだか…」
苦笑しながら言う明。
「君が近くに居ないから寂しかったんだよ、きっと」
「寂しいって…アイツが決めたことなんですよ?」
「それはそうだけどね…。
にしても、本当に良かったのかい?」
「何がです?」
「君がこう言う選択をするとは思わなかったよ。
君は初音くんの隣に居ることを選択すると思ってた。
多分、初音くんもそう考えてたと思うよ。
まさか君が……
自分で自分たちのウェディングケーキ作るって言うなんて、思っても見なかったよ」
「あははははは。
だってアイツ、昔っからでっかいウェディングケーキを丸ごと食べたいって、
テレビとかで結婚式のシーン見るたんびに言うんですよ?
それが式場探してる時に、実際に食べれる部分は一部だけって事を知って愕然としてましたからね。
そしたら今度は『どうやっても全部食べたいっ!』って言い出すんですから…」
タキシードの上に着けていたエプロンを外しながら明が言った。
「それくらいならバベルで出すのに…」
「いいんです、少しはわがままの言い過ぎは良くないって事に気付かせないと」
「…ははぁん。
初音くんが寂しがるってのを予想して、自分で作るって言い出したんだね」
「ま、ちょっとした亭主関白ってヤツですね」
「なるほどねぇ…うちはそれ失敗してるからなぁ…。
っと、明くんもそろそろ時間だよ」
「そうですね、それじゃ行きましょうか。
うちの寂しがりやな、お姫様のもとへ」
そう言って明はコック帽とエプロンを置き、花嫁の待つ部屋へと向かって行った。
(了)
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