書き書き書き書き…
消し消し消し消し…
書き書き書き書き…
「初音、終わったか?」
「うん」
「じゃあ、それはこっちの箱の中な」
「はーい」
ここは犬神・宿木家の居間。
明と初音はテーブルを挟んで向き合い、お互いに箱の中に何かを詰め込んでいた。
「よしっと。
生花だけど1日くらいなら持つだろう。
あとで夕飯の買い物に行ったときに出してくるか」
「そうだね」
2人の前に置かれている箱には宅配便の送り状が張られており、送り先には2人の実家の住所が書かれていた。
「5月の第2日曜日ってのはネックだよなぁ…。
俺らみたいに離れて暮らしてると、その日に受け取れないからなぁ…」
どうやら母の日のプレゼントのようだ。
「1日遅れちゃうけど仕方ないよね」
「そうだな…さてと、皿を洗って来るか。
初音、これが終わったら買い物に行くからな」
そう言いながら立ち上がる明。
「うん。
あ、その前に…」
「ん?」
とたとたと、小走りで初音が廊下を走って行く。
しばらくして、手に細長い箱と手のひらサイズの袋を持って戻って来た。
「はい、母の日のプレゼント」
「……俺にか…?」
「うん。
今の私には明がお母さん代わりだし」
「お母さんって…」
ちょっと傷付きながら言う明。
「だって、ご飯作って貰ってるし」
「いや、最近は『主夫』って言葉もあるからお父さん代わりというか…。
ああっもうっ!何言ってんだ俺はっ!!」
色々と、男としての葛藤をしながら悩む明。
「それじゃ、これからは明のことを『お父さん』って呼ぶね」
「お父さんって…。
そしたら俺は初音のことをなんて呼べばいいんだよ?」
「ん〜と…『お母さん』?」
「…まるでおままごとだな」
小さいときに遊んだときのことを思い出しながら明は言う。
「あ、でもそれだと『子供』が必要だよね」
「…あの鷹でいいんじゃないか?」
居間の入り口付近で、羽をついばんでいる鷹を指差しつつ言う明。
「え〜。
オジさんが喋るときがあるから『おじいちゃん』じゃない?」
「それじゃあどうするんだよ?」
苦笑しながら明は聞く。
「…本物がいいな…」
少し顔を赤くしながら呟く初音。
「…ほ、本物の『夫婦』になったらな…」
「…うん」
初音同様、顔を赤くしながら答える明であった。
(了)
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