あかりをつけましょ ぼんぼりに〜…



お花をあげましょ 桃の花〜…



5人ばやしの 笛太鼓〜…



今日はたのしい ひな祭り〜…



 とある日本家屋の一室。
 柱に打ち付けられている日めくりカレンダーには、『3月3日』と書かれている。
 そう、今日は『ひな祭り』であった。



お内裏さまと おひなさま〜…

                              ことん…

2人ならんで すまし顔〜…

                              ことん…

お嫁にいらした 姉さまに〜…

                              ことん…

よく似た官女の 白い顔〜…

                              こと…


「…あなた?何をしてらっしゃるのですか?」

 部屋のふすまを開け、声を掛けて来たのは和服を着た女性である。

「ああ、お前か…。
 いや、今日はひな祭りだから雛人形を飾っていたんだよ」

 そう答えたのは、甚平を着た巨体の男。
 どうやら雛人形を飾っているうちに、歌を口ずさんでいたらしい。

「あなたったら…。
 あの子は東京に居るんですよ?
 雛人形だけ飾っても意味ないじゃないですか」

 困った人ね…と、頬に手を当てて妻は微笑む。

「それもそうだな…。
 でもまぁ、ここまで出してしまったし…そうだ!!」

 ぴこーん!と、頭の上に電球を光らせて手を打ち合わす夫。

「次に帰ってくる時まで、飾って置いてやろうじゃないか!
 な?名案だろう?」

 そう言って、いそいそと雛人形の飾り付けを再開し始める。

「あらあら、本当にあなたはあの子が喜ぶことがしたいのね…。
 でもね…



 雛飾りを出しっぱなしにしてたら婚期が遅れる…ってのは迷信よ?」



びくっ…



 夫の背中が震え、その後だらだらと汗が噴出し始める。



「と言うか、東京で明ちゃんと2人暮らし…それも同棲よりは結婚生活に近いのに今更そんなことしたって…」



びくびくっ!



 1度目よりも激しく震え出す夫…もとい初音父。



「それにどちらかと言うと、婚期が遅れる可能性よりも学生結婚する可能性のほうが高いですよ?」

 さらりと核心を突く初音母。



「うぉぉぉおおおおぉぉぉぉ!!!
 初音ぇぇぇぇぇぇぇ!!父さんはなぁぁぁぁ!父さんはぁぁぁぁぁ〜!!!」



 トドメだったのであろう、初音母の言葉を聞き終わると同時に初音父は叫びながら部屋を飛び出した。



「お夕飯までには帰って来るんですよ〜」



 巨大な狼に変身して軽々と家の塀を飛び越えていった夫へ、微笑みながら言う初音母であった。



(終われ)


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