がやがやがや…



「味噌ラーメン一丁〜!」

「A定食あがりました〜!!」

「ちょっと、カツ丼まだ来てないよ!!」



 昼休みのバベルの食堂。
 どこの食堂でも似たような風景であろう、昼食を賭けた闘いが繰り広げられていた。



「…今日も混んでるなぁ」

 食券販売機に並ぶ列に参加しながら、食堂内を眺めた明がそう呟く。

「…明ぁ…お腹空いた…」

 明の上着の裾を掴みながら初音が言う。

「もう少し我慢しろって…」

 苦笑しながら、初音の頭を撫でつつ言う明。
 他の食券販売機に並ぶ職員たちから、羨ましげな(一部妬ましげに)視線を浴びるが2人は気が付かない様子。
 そこへ新たに職員が明と初音の並ぶ列に近づくが、2人に気が付くと別の列に移って行く。
 気付けば、明と初音の後ろには誰も並んでいない状態になっていた。
 明と初音の並ぶ列は5人前後、他の列は10数人並んでいるのにも関わらず誰も並ぼうとしない。
 何故なのだろうか。
 その謎は後ほど解明されることとなる…。






ビィー!ビィー!!ビィー!!!



 突如として、調理場内にアラームが鳴り響く。



「何事だ!!」

 おそらく責任者であろう、ヒゲ面でサングラスをかけた男が叫ぶ。

「…食券販売機より『特殊IDカード』の使用を確認!!」

 アラームの原因を確認した女性職員の声が響き渡る。

「……IDパターン『青』!!使…いえ、『食徒』です!!!」

 女性職員の声に、調理室にいる全員に緊張が走る。



「…1週間ぶりだな…」

 初老の男性が、ヒゲ面サングラス男に声を掛ける。

「ああ…間違いない…『食徒』だ…総員、第一種戦闘配置!」

 ヒゲ面サングラス男の声に、職員全員の動きが機敏になっていった。






「ちわ〜っす…」

 食券を片手に、明が受付へやって来た。

「は、はい!!」

 先ほどの女性職員が受付に来る。

「え〜っと…毎回毎回、申し訳ないんですが…これを…」

 右手に持っていた食券の束を、女性職員に手渡す。

「あと、こっちは俺の分です」

 左手に持っていた食券も一緒に手渡した。

「はい…。
 え〜っと…A定食、B定食、C定食、カツ丼、天丼、親子丼…」

 ずらずらと、手渡された食券を読み上げていく。

「あ…、メニュー『全部』なんで読まなくても…」

 苦笑しながら呟く明。

「はっ…!そ、そうですね…。
 メニュー『全部』『大盛り』とA定食1つでよろしいですか?」

「えぇ、お願いします」

「りょ、了解しました!!
 メニュー全部大盛りと、A定食です〜〜!」

 若干半泣きになりながら、調理場に伝える女性職員。
 その声に調理場は戦場と化した…。






「いっただっきま〜す!」

 嬉々として、出されたメニューに手をつけ始める初音。

「いただきます…」

 心の中で、調理場の職員に謝りながら食べ始める明。
 見る見るうちに、初音の前に空の皿が積まれていった。



「…あの身体にあの量が入るなんて…質量保存の法則を無視してるわ…」

 藍色の髪をした女性職員が、調理場から初音を見ながら呟く。

「…私が見るところ、『ディラックの海』ね」

 同僚であろう、金髪の女性が隣に立ちながら言った。

「『ディラックの海』ですって!?あれは前世紀に存在しないって…」

「あれは『食徒』よ?ありえない話じゃないわ…」

「そんな…」

 死屍累々と、床に倒れている職員たちを眺めながら肩を落とす女性職員であった…。









――――――おまけ――――――



「…局長…」

「…なんだネ料理長?」

 局長室では、料理長と呼ばれたヒゲ面サングラス男が局長と対談をしていた。



「…宿木と言う少年ですが…」

「うむ」

「…あの『食徒』…もとい、犬神という少女の食事を全て作っていると聞きましたが…」

「ああ、その通りだヨ」

「……彼を食堂にくれませんか?」

 明の知らない所で、今後の人事異動が決まりそうな空気…。
 明の未来やいかに!?



 ってかそれだと初音も一緒に付いて来て、支離滅裂だと思うぞヒゲ!!



(了)


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