ひのめとおままごと
「ただいま〜!」
元気良く事務所のドアを開けて、スモック姿のひのめが入って来る。
「あぁ、おかえりひのめちゃん」
『おかえりなさい、ひのめさん』
事務所にやって来たひのめを、横島と人工幽霊1号が出迎える。
どうしてひのめが事務所に真直ぐ帰ってくるかというと、
母親である美知恵はICPOの仕事で海外出張中であり、姉である令子にひのめを預けていたのであった。
「お姉ちゃんたちはまだ帰って来ないの?」
「うん、時間がかかってるみたいだねぇ」
ここで説明の補足を、現在事務所には横島しか居ない(人工幽霊1号は別として)。
何故かというと美知恵がひのめを預けた後、すぐに来た依頼に事務所勢全員で出かけて行ったからである。
事務所で2番目の戦力である横島がどうして留守番をしているかと言うと、除霊相手が俗に言う『淫魔(サキュバス)』であり、
男である横島は否応にも無く(むしろ自分から)、虜にされてしまうために連れて行けなかったのである。
ひのめの相手が必要だったので、不幸中の幸いと言えるかも知れない。
「ねぇねぇお兄ちゃん遊ぼう〜」
「ん〜いいよ、なにして遊ぶ?」
「う〜んとね〜…『おままごと』!!」
「おま…」
横島の脳裏に昔の記憶が蘇る…。
過去から来た令子とのおままごと中に、焼いたヤモリを食べさせられた記憶が…。
「え〜っと…おままごとは…」
「…駄目?」
子供の純粋な瞳を、若干潤ませながら横島を見つめるひのめ。
よほどの悪人で無い限り、この視線に勝てる奴はいない…。
「わかったよ…おままごとしようか」
『私はおやつの準備をしてますね』
こうして、横島とひのめのおままごとが始まった…。
「じゃあお兄ちゃんは『帰ってきたお父さん』役ね。玄関から入ってきて」
「うん…ただいま〜」
「おかえりなさいあなた、食事にする?お風呂にする?
それとも…夜のお勤めに行きます?」
どごしゃぁ!
ひのめのセリフに、横島が床板に顔をめり込ませる。
「…ひ、ひのめちゃん…そんな言葉何処から…」
顔をめり込ませたまま横島が聞く。
「え?お兄ちゃんの持ってる本に書いてあったよ?
ママに聞いたら『お兄ちゃんに言ったら喜ぶわよ』って言ってたし」
「たいちょぉぉぉ!!なんてこと教えてるんですかぁぁぁ!!」
涙を流しながら横島が叫ぶ。
「それと、『出来ればお姉ちゃんと一緒にいっしょにやった方がいい』とも言ってたけど?」
「あの人は俺に犯罪者になれと言うんかぁ!」
『それは違うと思いますが…』
泣き叫ぶ横島に、人工幽霊1号がツッコミを入れる…。
何処までも鈍感な横島であった…。
(了)
初出:GTY
2006年7月22日